男爵ひろし様の作品

宇宙螺旋戦争
-1st.エピソード-

西暦2469年。1969年7月20日に人類が初めて地球以外の天体に、その足跡を残してから丁度500年が経過していた。22世紀中頃にライト・バリアー(光の障壁)を破る事に成功した人類は、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星に有人基地を設立していた。如何に25世紀のテクノロジーを持ってしても、恒星系第1惑星である水星、第2惑星の金星の1000度から500度にも及ぶ灼熱地帯に、有人基地を設立するのは不可能であった。恒星を中心とした各惑星の広大な楕円軌道に由来して、人類は螺旋連邦を樹立していたのである。20世紀後半にアメリカ航空宇宙局NASAが数回に渡って打ち上げた、無人惑星探査機ボイジャーとバイキングからの電波送信によって、異文明の存在を知り得た人類は宇宙艦隊を編制して、異星人とのファースト・コンタクトを試みたのである。しかし、異星人達は支配宙域に飛来した探査機を遠隔探知により調査した所、原子核融合路が搭載されている事に気付き、これを侵略行為と判断して支配宙域の境界線上に迎撃艦隊を配備する。友好的接触を目的として異文明の支配宙域に飛来した螺旋連邦艦隊は、アイゼンヘルツ帝国の迎撃艦隊との砲火を交えると言う予期せぬ結果となったのである。この日以来、両国の間で激しい戦闘が繰り返されて30年が過ぎ様としていた。時に西暦2499年。

ここは螺旋連邦宇宙艦隊総司令部。ジャルバス宇宙艦隊総司令官を中心に帝国領進攻作戦が議論されていた。
「諸君らも既に承知している通り30年に及ぶアイゼンヘルツ帝国との戦闘で、物資人的資源の消耗 が大幅に拡大している。これ以上の戦闘継続は我が螺旋連邦にとって不利益に繋がるだろう。そこで 我が螺旋連邦宇宙艦隊総司令部は現在召集可能な艦隊と、整備した老朽艦を新たに配備して大規模な 帝国領進攻作戦を立案した。では、デルビー作戦参謀。説明を」
「はっ!本作戦で投入される兵員は1億人。艦隊は100万隻体制で臨みます。次に我が螺旋連邦とアイゼンヘルツ帝国との中間宙域に存在するガルマン回廊に、直径100Kmに及ぶ全天球型の人工要塞をトランス・ミッション・ワープドライブにて移動。要塞を橋頭堡とし最短ルートで帝国の首都星ゲーリングを攻略すると言う計画です」
ここで一人の艦隊士官が挙手をしている。デルビー作戦参謀がその士官に尋ねた。
「ツカサ中将閣下、何でしょうか?」
「先日完成した要塞をガルマン回廊に移動して橋頭堡とする事は分かるが、100万隻の艦隊を最短ルートで帝国の首都星に向かう場合、ルート上の帝国領の惑星を攻略しなければならない。また、艦隊の隊列が長蛇になる為に補給が難しくなる恐れが生じる。その点を今一度考慮に入れて作戦を立て直すべきではないか?」
「その点はご心配要りません。この30年に及ぶ戦闘で帝国の軍事力は最大でも80万隻です。更に帝国領の各惑星に艦隊を分散している為、進攻ルート上の惑星には半数の40万隻程度の戦力です。当然の事ながら帝国は我が軍の進攻作戦を知りません。この機を逃して螺旋連邦の勝利はありえません」
「だが、帝国領に進攻した時点で帝国艦隊が動き出すだろう。その際、バクロード元帥指揮下の帝国 艦隊が出撃して来る可能性が大きい。この5年間、彼の戦略戦術に我が軍が翻弄され続けた事も考慮 に含めた方が良いと思うのだが」
ツカサ中将の発言にジャルバス総司令官が口を挟む。
「ツカサ中将、貴官がバクロード元帥を高く評価しているのは分かる。だが、彼もいつまでも常勝とは限らん。敗れる事もあるだろう」
「ですが、彼以上の失態をしてからでは遅いのです。総司令閣下」
「もういい。他に意見のある者は?」
長い戦乱から帝国との決着を望む各艦隊士官からの異論は無かった。ツカサ中将を除いては。
「デルビー作戦参謀、ガルマン回廊付近に先行させている艦隊から帝国艦隊の動向について何か?」
「はい、報告では帝国艦隊の動きは無いとの事です。総司令閣下」
「よし!では明朝、要塞と同時に艦隊をガルマン回廊に移動させる事にする。解散!」
こうして螺旋連邦の帝国領進攻作戦が開始されたのであった。

その頃アイゼンヘルツ帝国首都星ゲーリングの元帥府に一つの情報が届く。ランドルフ軍務幕僚がバクロード元帥の下を訪れた。
「元帥閣下、先程螺旋連邦に潜入させている諜報将校より報告が届きました。これが報告書です」
「うむ。・・・・・・・・・・・・・・ランドルフ軍務幕僚、この内容についての君の意見は?」
「はっ!既に螺旋連邦がガルマン回廊に要塞を移動させたとあれば事態は深刻です。報告内容によると直径100Kmに及ぶ要塞の外壁は流体多結晶合金で覆われており、通常の艦隊砲撃の効力を皆無に成すとの事です。また、10万基の要塞守備砲塔の有効射程距離が50Kmに及ぶ為、帝国艦隊の砲撃有効射程距離に到達する前に攻撃を受ける事になります。この2点から考察するに艦隊戦力での要塞攻略は極めて困難だと言えます。そこで螺旋連邦艦隊の進攻ルート上の惑星に全帝国艦隊を集結して、迎撃体制を布陣する事が得策だと思われます」
「なるほど、だが、君の考えには1つ問題がある。既にガルマン回廊に集結した螺旋連邦艦隊は移動 している。全帝国艦隊が進攻ルート上の惑星に集結完了までのタイムラグは5日。その間に100万 隻の螺旋連邦艦隊に40万隻の帝国艦隊が悉く撃破されるだろう」
「では、元帥閣下は如何なる対応策をお考えでしょうか?」
「先ず第1に螺旋連邦艦隊の進攻ルート上の各惑星から、食料を含む全物資を徴収して駐留艦隊を首都星防衛宙域線上まで撤退させる。第2に外周宙域の艦隊10万隻をガルマン回廊宙域近郊に移動待機させる。第3に内部宙域の艦隊30万隻を進攻ルート上の中間惑星から、50光年離れた宙域まで移動待機させる」
「お言葉ですが元帥閣下。それでは我が帝国艦隊が3分割される事になり、100万隻の螺旋連邦艦 隊に対し首都星ゲーリングの防衛力が希薄になりますが?」
「ランドルフ軍務幕僚、第1の作戦で軍により全ての物資を徴収され、駐留艦隊が撤退したあとに取り残された庶民が始めに螺旋連邦に要求するのは、保護ではなく食料生活物資を求めるだろう。無血占領した各惑星で螺旋連邦艦隊は自らの物資を庶民に分け与える事で、当初の作戦遂行を行う上で必様な物資が自ずと不足する結果となり、各惑星に暫くの間足止めを余儀なくされる事になる。第2の作戦の趣旨に於いては次の事が言えるだろう。不足した物資を補う為に各惑星に足止めされた螺旋連邦艦隊は、ガルマン回廊に点在する要塞に補給を申請する事になる。だが、要塞には兵員1億人全ての食料物資を補えるだけの備蓄はない。報告によれば精々2千万物資までが限界だ。しかし、要塞側としても各艦隊からの要請を無視する事は出来ず、補給艦隊を派遣せざる負えないだろう。空母、戦艦、巡洋艦、駆逐艦の全てを進攻作戦に投入している為、要塞から各惑星に派遣される補給艦隊の護衛艦は皆無となる。物資の補給を目的とする補給艦隊は非武装であるから、移動待機させた帝国艦隊10万隻を持って容易に破壊殲滅する事が可能である。その結果、補給を絶たれた各艦隊は1度庶民に分け与えた食料生活物資を、武力を用いて奪い返す事となるだろう。武力を持たない庶民との戦闘に於いても多少の将兵の損失は生じる。第3の作戦の意義は進攻ルートの側面から螺旋連邦艦隊に攻撃を仕掛け、要塞方面からの10万隻と首都星防衛宙域線上からの40万隻の帝国艦隊で3方向からの包囲殲滅を行う。各惑星軌道上の螺旋連邦艦隊の索敵範囲は40光年が限度だ。側面方向に待機している我が艦隊から、各惑星に向けて高速強行潜航偵察艦を送り敵の動向を監視。敵が動き出す時機に合わせて攻撃を開始する作戦を行う」
「はっ!それでは首都星防衛艦隊の司令官をブラードル大将。側面遊撃艦隊の司令官をユユーゼ大将。補給殲滅艦隊の司令官をビトー大将とし、これより作戦司令を各司令官に伝達致します」
「うむ。私はバロン皇帝陛下に作戦内容のご報告をして置く」

一方、ガルマン回廊から帝国領進攻作戦を開始した螺旋連邦艦隊は10万隻単位10個艦隊に分散して、ルート上の10個の惑星を攻略する為に各艦隊司令官が第1艦隊の旗艦に集結していた。「ジャルバス元帥閣下。各艦隊司令官が到着致しました」
「ご苦労、では諸君。これから作戦行動の最終確認を行う。君から説明をしてくれたまえ。デルビー作戦参謀」
「はっ!先ず作戦の便宜上、攻略する惑星を回廊側から数えて第1惑星から第10惑星とします。次に第1艦隊から第10艦隊は各々艦隊番号と同一の惑星を攻略。第1艦隊司令ジャルバス元帥、第2艦隊司令サダール大将、第3艦隊司令ダーイ大将、第4艦隊司令エムイ大将、第5艦隊司令ツカサ中将、第6艦隊司令ヨシー中将、第7艦隊司令ジュ−ン中将、第8艦隊司令ボンドル少将、第9艦隊司令クーグ少将、第10艦隊司令リュウ少将の指揮下で作戦を行って頂きます。帝国の圧制に苦しむ各惑星の庶民を解放し、その後全艦隊は第10惑星で合流します。そして第1艦隊司令ジャルバス元帥閣下を総司令官として、最終目的である帝国首都星ゲーリングを陥落させるのが目的です」
デルビー作戦参謀の説明が終わり、ジャルバス元帥が発言した。
「尚、要塞までの退路を絶たれる可能性も考慮に入れ、回廊付近には空間探知機雷を設置して置く。 現時点で何か質問は?」
第5艦隊司令ツカサ中将が元帥に質問する。
「元帥閣下、これはあくまでもの事ですが万が一にも我が艦隊が撤退を余儀なくされた場合、機雷群に各艦隊が阻まれると思うのですが?
」 「ツカサ中将、その点は問題ない。今回の作戦に合わせて空間探知機雷を改良してある。螺旋連邦の 各艦隊の周波数に反応してリング状に軌道修正する事で、我が艦隊に危険は及ばない様にしてある」
「失礼致しました。元帥閣下」
「他の者は何か質問はあるかね?・・・・無い様だな。では、各艦隊の幸運を祈る!」
こうして各艦隊は各々の攻略目的惑星に向け作戦行動を開始したのである。

再びアイゼンヘルツ帝国に舞台は移る。宮殿の玉座に座してバクロード元帥の報告を聞くバロン皇帝
「・・・以上が螺旋連邦艦隊が行う帝国領進攻作戦に対する作戦内容で御座います。皇帝陛下」
「うむ。世としては元帥の立案した作戦に異論はない。これまでの元帥の数々の武勲から見ても本作戦は必ずや我がアイゼンヘルツ帝国の勝利となるであろう。だが、一つ聞いても良いか?」
「ははぁ!何なりとも」
「螺旋連邦艦隊を撃退したとしてもガルマン回廊に点在している要塞の為に、我が帝国艦隊は螺旋連邦領に進攻する事が困難であろう。帝国と連邦の領域に侵入する為には唯一回廊を通る他はない。恒星系第3惑星地球を陥落させねば真の勝利と言えんのではないか?」
「恐れながら申し上げます、皇帝陛下。その点に付きましたは私に妙案が御座います。螺旋連邦が今回の作戦を行うに当たり、3年前から要塞を建造しているとの情報を入手して居りました。それに伴い既に帝国領内に配備して居ります中型及び小型要塞を、敵艦隊殲滅後に回廊に移動集結させると同時に3分の2の艦隊を移動。更に、我が帝国に於いても3年前より最新型の大型要塞の建造に着手して居りました。あと14日で完成致しますのでその要塞も回廊に移動させ、要塞対要塞の決戦を強いる所存で御座います」
「うむ。承知した。では、あとは任せたぞ!元帥」
「ははぁ!!」
玉座を立ち宮殿の奥へと姿を消して行くバロン皇帝。そしていよいよバクロード元帥の指揮下で螺旋連邦艦隊殲滅作戦が行われ様としていたのであった。

ブラードル大将指揮下の首都星防衛艦隊旗艦の艦橋では各惑星からの報告が続く。
「ブラードル大将閣下、第1惑星から第9惑星までの駐留艦隊の撤退が完了致しました」
「よし!では我々も第10惑星から撤退する。ヒーロック准将、各艦隊に帝国標準時1691D03 04までに作戦宙域に到達する様に伝達しろ!」
「はっ!直ちに各艦隊に司令を伝達致します!大将閣下!」
ユユーゼ大将指揮下の側面遊撃艦隊旗艦の艦橋では。
「ユユーゼ大将閣下、敵進攻ルート中間惑星宙域50光年の位置に到達致しました」
「イブレッド少将、第1惑星から第10惑星に向け高速強行潜航偵察艦を発進させよ!」
「はっ!直ちに各惑星に向け高速強行潜航偵察艦を発進致します!大将閣下!」
ビトー大将指揮下の補給殲滅艦隊旗艦の艦橋に於いては。
「ビトー大将閣下、帝国領側のガルマン回廊出口付近宙域に到達致しました」
「タークト准将、回廊から第1惑星間に配置されている空間探知機雷のデータ解析を行え!」
「はっ!直ちに各艦隊に中間子パルスにてプログラム解析を実施致します!大将閣下!」
バクロード元帥傘下の帝国三大将軍達の即効機敏なる行動に於いて、螺旋連邦艦隊殲滅作戦の準備は 整えられたのである。

第5惑星の周回軌道上に到達したツカサ中将指揮下の第5艦隊旗艦の艦橋では、帝国駐留艦隊の索敵が行われていた。
「ツカサ中将閣下、索敵の結果、帝国駐留艦隊の存在は見当たりません」
「何?駐留艦隊が存在しないだと!再確認はしたのか?!」
「はい!3度に渡り確認致しましたが敵の存在はありません!」
「妙だな?・・・・第4艦隊のエムイ大将と第6艦隊のヨシー中将に至急通信回線を開け!」
「はっ!第4艦隊並びに第6艦隊に通信回線を開きます!」
何やら不審を擁いたツカサ中将はエムイ大将とヨシー中将に各々の状況確認をする。
「ツカサ中将閣下、エムイ大将閣下及びヨシー中将閣下との通信回線を開きました」
「エムイ大将閣下、ヨシー中将。そちらでは敵駐留艦隊との交戦はなされましたか?」
「いや、特に敵の攻撃の被害はない。ヨシー中将の方はどうだ?」
「はい、こちらも攻撃の被害はありません。ツカサ中将の方は交戦したのか?」
「いえ、こちらでも敵との交戦はなかった。エムイ大将閣下、他の艦隊からは何か?」
「いや、別段何も連絡を受けていない。何かあれば今度はこちらから連絡しよう。ツカサ中将」
「はい、お願い致します。ヨシー中将の方も宜しく」
「了解した。では」
同じ頃、第3惑星の周回軌道上の第3艦隊司令ダーイ大将の所へ、第2艦隊のサダール大将からの通信回線が開いていた。
「ダーイ大将、こちらでは敵駐留艦隊は存在していない様だが・・・・・・・」
「え?第2惑星の方もか?サダール大将」
「やはりそうかぁ。先程ジャルバス元帥閣下にも連絡したんだが、第1惑星も我々と同じ状況の様だそうだ」
「だとすると回廊を出た時点でやはり帝国に察知されて駐留艦隊を撤退させてのであろうな」
「ダーイ大将、貴官もそう思うか。ジャルバス元帥も同意見らしい」
「ま、無血占領が出来るのであればそれにこした事はないが・・・」
一方、第7惑星の周回軌道上の第7艦隊司令ジューン中将の下へは。
「ジューン中将閣下、第8艦隊ボンドル少将、第9艦隊クーグ少将、第10艦隊リュウ少将より通信 回線が開いて居りますが」
「うむ。ボンドル少将、貴官の方の状況はどうだ?」
「はい、敵駐留艦隊の存在は認められません。我が艦隊の動きを察知して撤退したものと思われます」
「クーグ少将の方はどうだ?」
「はい、こちらも同様です。一切の被害はありません」
「リュウ少将、貴官の方の状況も同様か?」
「はい、ここ第10惑星に於いても・・・・・・」
そこへ通信担当官から報告がジューン中将に届けられた。それはジャルバス元帥からの連絡文である。
「ジャルバス元帥閣下より今し方連絡文が届きました」
「見せてみろ!・・・・・・ボンドル、クーグ、リュウ。元帥閣下からの司令を伝える。第1から第 6惑星でも同様であるらしい。各艦隊は当初の予定通り作戦を継続せよ!」
「はっ!(ボンドル、クーグ、リュウ)」
帝国駐留艦隊との砲火を交えずに各惑星に降り立つ螺旋連邦艦隊は、各惑星に取り残された庶民の代表者と出会うのであった。

ここでは第5惑星に降り立った第5艦隊に焦点を合わせて見る事にしよう。
「ツカサ中将閣下、第5惑星の庶民の代表者達が観えました」
「代表者の皆さん。我が螺旋連邦艦隊はあなた方に自由と平等をお約束致します」
そう代表者達に告げるツカサ中将の傍に一人の初老の男性が近寄る。
「司令官閣下、帝国の奴らこの惑星から全ての食料生活物資を奪い本国に撤退しました。子供達に飲 ませるミルクすらありませんのじゃ。自由と平等よりも食料生活物資の保障をして欲しいのじゃが?」
「も、勿論です。艦隊からの物資の提供を致しましょう」
「おおおお!!そうして下さると有難い。みんなぁ!螺旋連邦の軍人さんに感謝しようではないか!」
「長老の言う通りだぁ!みんなぁ!これで赤ん坊にミルクを飲ませられるぞう!」
「ううう・・・良かったわぁ。私達大人は我慢出来てもこの子達にはひもじい思いをさせたくないわ」
「そうだぁ!そうだぁ!螺旋連邦万歳!!帝国をやっつけろう!!」
喜び湧き上がる庶民達の姿を見ていてツカサ中将は思う。
『我々は必ず帝国を打倒してこの宇宙に平和を取り戻さなければならない』
だが、螺旋連邦と庶民との蜜月の時はそう長くは続かなかったのである。地球の3分の2位の規模の惑星とは言え、艦隊物資の全てを供給するのは困難を極める。その為、当初の惑星滞在期間が大幅に伸びてしまい、急遽要塞に補給物資の要請をする事になった。
「通信担当官、至急要塞に補給物資の要請をしろ!」
「はっ!・・・こちら第5艦隊。要塞管制室応答せよ。こちら第5艦隊。要塞管制室応答せよ・・・」
「こちら要塞管制室。第5艦隊、何でしょうか?」
「要塞管制室、ツカサ中将だ。艦隊物資が不足しているので至急補給艦隊を向かわせて欲しいのだが」
「ツカサ中将閣下、申し訳ありません。既に第1艦隊から第4艦隊からも同様な要請がありまして、 もう、要塞の備蓄は御座いません」
「何だと!!では、第5艦隊から第10艦隊までには補給が出来ないとでも言うのか?!」
「申し訳御座いません、閣下。あとはそちらで現地調達をして頂く他に手段が・・・・・」
「ば、馬鹿な事を言うな!我々に武力を以って庶民から物資を奪えとでも言うのか?!」
「申し訳御座いません。・・・・・・・・・・・・・・」
「お、おい!通信を切るな!・・・お、おい!・・・大至急回線を繋げ!」
「だ、駄目です!・・・通信回線が完全に遮断されて居ります!」
「な、何だとう!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「中将閣下、どう致しますか?」
「このままでは作戦継続は不可能だ。・・・・・・う〜む。止むを得ん!全員!回収準備にかかれ!」
苦汁の選択を余儀なくされたツカサ中将は兵士達に物資の回収命令を出した。そして庶民との・・・
「ぐ、軍人の方々。ど、どうして?」
「煩い!黙って物資を渡せ!」
「や、やめて下さい!そ、それを持って行かれると赤ん坊が・・・・・・・」
「何の役にも立たない子供なんてほっとけ!」
「そ、そんなぁあああああああ!!ひ、酷いわぁあ!これじゃあ!帝国よりも残忍じゃない!!!」
「煩い!!そこの女!それを遣せ!!」
「きゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
こうして第5艦隊の兵士達は1度分け与えた食料生活物資を全て回収したのである。
「ツカサ中将閣下、物資回収完了致しました」
「庶民達と兵士の被害状況は?」
「はい、惑星全域での庶民の被害は70%。兵士の被害は30%です」
「そうか・・・・・・・・・・・・全艦、第5惑星から離脱する!」

そしてアイゼンヘルツ帝国の元帥府ではランドルフ軍務幕僚がバクロード元帥に報告している。
「元帥閣下、第5惑星から第10惑星に於いて螺旋連邦と庶民との間で戦闘が行われました」
「よし。ビトー大将に伝達。敵補給艦隊を全て殲滅せよと!」
「はっ!」
「それからユユーゼ大将とブラードル大将には、敵補給艦隊殲滅の知らせが届き次第。予定の作戦が即時に遂行出来る様に臨戦態勢を整えさせよ!」
「ははっ!」
要塞から螺旋連邦第1艦隊から第4艦隊に向けて補給艦隊が移動を開始した。立て一列になって航行 している補給艦隊の側面からビトー大将指揮下の補給殲滅艦隊の一斉砲撃が始まる。
「巡洋艦隊に伝達!敵補給艦隊に一斉艦砲砲撃開始!」
巡洋艦隊の中性子パルス砲の接近に気付いた補給艦隊は。
「艦、艦長!側面から敵の砲撃が急接近しています!」
「何!直ちに回避行動に移れ!」
「だ、駄目です!もう!間に合いません!うっわぁああああああああああああああああああ!」
瞬く間に補給艦隊は帝国艦隊に撃破殲滅されてしまった。
「よし!第1次作戦完了。これより空間探知機雷の切除の為、艦隊を移動する!」
ビトー大将指揮下の帝国艦隊は第1惑星宙域に設置してある空間探知機雷切除の為、全艦光速推進航行で移動した。また、要塞から補給艦隊が帝国艦隊に撃破殲滅された事を知ったジャルバス元帥は。
「補給艦隊が全滅しただとぅ!図られたかぁ!止むを得ん!惑星全域から物資の回収を急げ!」
結果、第2艦隊から第4艦隊も同様の決断をして庶民との戦闘を始めたのである。

何時の世も戦乱の犠牲になるのは最前線の将兵よりも庶民である。それはまるで庶民の存在意義がそこにあるかの様に利用されるのである。螺旋連邦とアイゼンヘルツ帝国との戦いは更に激化する事となる。

宇宙螺旋戦争(スペース・スパイラル・ウォーズ)2nd.に続く


←BACK  TOP  NEXT→