男爵ひろし様の作品

マーメイドプリンセスの歌声 そして・・・

 1:ここは人魚達が平和に暮らすマーメイド・シャトーです。
伝説の世界で“セイレーンの魔女の歌声”と多くの船乗り達に
恐れられていましたが、その実体は極めて温厚な人魚達でした。
そんな伝説から時は流れて現代に至ります。
マーメイド・シャトーの女の子達は皆、17歳になると成人と
なり、セイレーンの歌声を歌う風習でした。ですが、ここに
一人思う様に歌を歌えない人魚がいました。
「グス・・・・みんな見たいに綺麗な声が出ないわ・・・・」
王宮の片隅でしょ気返るプリンセス・ツカサです。
「ツカサ、ツカサ・・・どこに居るの〜・・・・」
「あっ、ママ〜!・・・私はここよ〜」
「こんなとこに居たの?・・・明後日は成人の祝典があると言うのに」
「ママ〜・・・私、出たくないわぁ〜・・・・」
「何を言っているの?王女がそんな事じゃ駄目じゃない!」
「だってぇ〜・・・綺麗に歌えないんだもん!・・・グス」
「もう〜!人間界の海底ケーブルから接続したインターネットばかり
して、猫背になってしまったからよ!」
「だって〜面白いんだも〜ん!ねね、ママもチャットしない?」
「まぁ〜呆れたわぁ〜・・・・・・・」
王女の自覚がないツカサに呆れる女王ハルカです。


2:王宮の神殿でどうしたものか思い悩む女王ハルカの所に。
「女王ハルカ様、如何為さいましたか?」
「?・・・おぉぉ、イルカ男爵ですか・・・・」
「あの〜バホ男爵ですけど・・・・・・・・・」
「あら、ごめんなさい。バホ男爵・・・・・・」
「ところで何を思い詰めていらっしゃるのですか?」
「娘のツカサの事なのよ。・・・はぁ〜」
「王女様がどうか為さいましたか?女王ハルカ様」
「明後日の祝典に出たくないなんて言うのよ。ツカサが・・・・」
「おや?それはまた。如何なる理由でしょうか?」
「それが・・・インターネットのし過ぎで猫背になってしまい、
声が上手く出ないらしいのよ〜バホ男爵」
「大分チャットにお嵌りのご様子ですからねぇ〜王女様は・・・」
「何か良い手立ては無いかしら?バホ男爵」
「・・・・そうだ!女王ハルカ様、私に良い考えがありますよ!」
「あら?それは一対?」
「それはですなぁ〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まぁ〜!・・・成る程・・・流石はバホ男爵!賢いわねぇ〜」
「では、本日の正午に・・・宜しいですか?女王ハルカ様」
「えぇ、分かりました。では、正午に・・・」


3:マーメイド・シャトーの男子は皆、イルカです。人魚となれる
のは女子だけでした。そして正午の時が鳴ります。
「ママ、ご用ってなに?」
「ツカサ、あなたの声を綺麗にする方法があるの」
「え!?ほんと!ママ〜!・・・嬉しい〜!」
「イルカ、もとい、バホ男爵が良い事を思い付いてくれたのよ」
「いえいえ、愚作ですが・・・・」
「バホ男爵、それはどんな考えなの?」
「王女様、これを使います」
バホ男爵はツカサの前に縄を取り出して見せました。
「この縄でどうするの?バホ男爵・・・・」
「こうするのよ!ツカサ!ほら!」
「きゃぁああ!・・・ママ〜!一対何をする積もり〜!?」
女王ハルカはツカサをその縄で後手に縛り上げていまいました。
「王女様、猫背を治すには先ず、背筋を伸ばす事が肝要ですよ」
「そう言う事よ。ツカサ」
「あ〜ん!でも、何で縛られなきゃいけないの〜?」
「王女様、それは王女様としての自覚に欠けるお仕置きも兼ねているんですよ」
「そうよ。でも、ちゃんと背筋が伸びているじゃない。ツカサ」
「もう〜ママと男爵の意地悪!・・・・・」


4:縛られて不機嫌になるツカサに女王ハルカが言いました。
「ツカサ、あなたは明日の正午まではそのままでいるのよ」
「え!?・・・明日の正午まで〜?・・・そ、そんなぁ〜!」
「だから言ったでしょ!お仕置きも兼ねていると」
「ママ〜!ごめんなさ〜い!・・・許してぇ〜!・・・グス」
「いい事、ツカサ。これから海に出て海面で歌の練習をしなさい!」
「グス・・・は〜い。ママ・・・」
「バホ男爵、あなたも付き添いをして上げて頂戴ね」
「バホ!お任せを女王ハルカ様」
「では、ツカサ。頑張るのですよ」
「はい・・・ママ」
「では、王女様。参りましょうか」
「そうね、バホ男爵。付き添い宜しくね」
「バホ!」
こうしてツカサとバホ男爵は王宮から海に出て行きました。

5:縛られながらも器用に泳ぐツカサの機嫌は何時の間にか直りました。
「見てぇ〜!バホ男爵。背筋が伸びるとこんなにも綺麗に泳げるのねぇ〜」
「バホ!王女様、お見事な遊泳ですなぁ〜」
「でしょう〜・・・ほら〜!早くしないと置いて行くわよ〜!あはっ^^」
「バホ〜ン!・・・では、海面まで競争ですぞ。王女様」
「あはっ^^v・・・負けるもんですかぁ〜」
「バホ!・・・バッはははは・・・・・・・」
楽しく海面まで泳ぐツカサとバホ男爵に攣られて“未確認生物のUMA君”
(ユーマくん)まで現れました。
「あ、UMA君〜!見て見てぇ〜!私、これから海面まで行くのよ〜」
「王女様、僕もご一緒して宜しいですかぁ?」
「いいわよ〜!みんなで一緒に行きましょ!・・・あはっ^^」
「バホ〜ン!それが宜しゅう御座いますなぁ〜」
「わ〜い!それじゃ〜皆さんで海面まで競争しましょうよ!」
「あら?私に付いて来れるかしら?UMA君」
「はい、謎の生物ですからね。僕は・・・・あははは」
「ですぞ、王女様。どんな力が備わっているか分かりませんぞ」
「だったら、私を追い抜いてご覧!・・・あはっ^^v」
「言いましたねぇ〜王女様。よ〜し!」
仲良く戯れるツカサとバホ男爵とUMA君です。

6:ようやく海面が皆の目の前に近付きました。
「あはっ^^v・・・やっぱり私の勝ちだわぁ〜!」
「バホ!王女様、流石ですなぁ〜このバホ男爵御見それ致しました」
「ほんと!早いやぁ〜王女様は〜」
「それじゃぁ〜この岩の上に上がるわね」
「そうですな、王女様。それが宜しゅう御座います。バホ」
「では、王女様。僕は人間に見付かるといけないからここで」
「あら?そうなの。UMA君・・・じゃぁ〜またねぇ〜」
「達者での〜UMA君」
「はい、では、また・・・・・ぶくぶくぶく・・・・・・」
再び海面下に姿を消すUMA君です。そしてツカサは岩の上に座りました。
「王女様、さぁ〜ご存分にお歌い下さい。バホ」
「うん!・・・それじゃ〜・・・・」
ツカサは背筋をピン!としてセイレーンの歌を歌い始めました。
「♪♪〜♪〜♪♪♪〜♪〜♪〜♪♪〜・・・・・・・・・・・」
そのツカサの余りにも美しい歌声に、お魚さん、タコさん、そして鮫さん達
までも喜び勇んで近付いて来ました。
「王女様、素敵でチュー〜」
タコさんが口を尖らせてツカサにラブコールをしていました。
「そうだそうだ!(お魚さん、鮫さん)」
「あはっ^^v・・・有難うタコさん、お魚さん、それに鮫さん達」
「王女様、やれば出来るでは御座らんかぁ〜バホ」
「うん、有難うバホ男爵。これもママと男爵のお蔭ね。あはっ^^v」
自分でも驚く程澄み切った歌声に感激しているツカサです。そして日の暮れる
までツカサは歌い続け、皆、その歌声に時を忘れて聞き惚れていました。
こうしてツカサは無事に成人の祝典を迎える事が出来たのです。

7:「有難うママ、バホ男爵・・・・・・・・・・・・・・」
「ママ、ママ・・・ママ、起きて。・・・起きてよママ」
「う〜ん・・・・・あら?・・・春香ちゃん?」
「あら?春香ちゃんじゃないわよ〜!何、寝ぼけているのママ」
「あら!嫌だ!・・・ママ、何時の間にか居眠りしていた見たいだわ・・・」
「もう〜!ママったらぁ〜・・・お仕事のし過ぎよ!」
「あは^^;・・・ごめんm(_)m・・・・・・・」
「ところでバホなんとかって何?ママ」
「え!・・・・た、唯の夢よ・・・・・・・」
「へぇ〜・・・で、どんな夢だったの?」
「そ、それは・・・内緒よ!春香ちゃん」
「もう〜ママのケチ!」
「あは^^;;・・・・」
「さぁ、ママ。居間でパパが待っているよ。ママの誕生日を祝う為にね」
「そうだったわね。・・・行きましょう、春香ちゃん」
「うん!」
そうです。今日、1月22日は束沙の誕生日です。家族水入らずでのお祝いです。

8:居間に揃った3人は束沙を挟んでお祝いの拍手をしています。
「束沙、お誕生日おめでとう」
「ママ、私からもおめでとうを言うね」
「うん、有難う。あなた、春香ちゃん」
「さぁ〜束沙。ケーキの蝋燭を消してご覧」
「ママ、早く〜・・・・・・」
「ところで蝋燭は何本あるのよ〜・・・1度で消せないよ〜^^;;」
「あはははは・・・・・(亭主のひろし、春香)」
「せ〜の〜!・・・・・ふぅー!・・・・・・・」
どうにか全ての蝋燭を吹き消した束沙です。(いや〜!お疲れ様)(^^)」
「でも、お祝いしてくれるのは嬉しいけれど、この年齢になるとねぇ〜」
女性の複雑な心理を呟く束沙です。そこへ亭主のひろしが話し掛けました。
「何を言っているんだ、束沙。今夜はお前だけのお祝いじゃないんだぞ」
「あら?それ、どう言う意味なの?あなた・・・・」
「お前が生まれた記念日だからな」
「当り前じゃない。そんな事は?」
「だから、お前がこの世に生まれて来てくれたお蔭で、俺とそして愛娘の春香
に出遭えた記念すべき日なんだよ」
「そうだよ、ママ。ママがパパと出遭ってくれたのも、ママが今日、生まれた
からだよ。だから今夜はみんなの記念日なんだよ。ママ」
「春香の言う通り。お前がこんな俺を愛してくれたお蔭で俺はどんなに幸せ
だったか。そして春香と言う天使まで与えてくれたんじゃないか」
「うん!春香、パパとママが大ぁぁぁぁぁあああい好き!ねね、ママもでしょ?」
「えぇ、そうね。ママも春香とパパが大好きよ〜!・・・・・グス」
ひろしと春香の心優しい言葉に目頭を熱くする束沙です。

9:家族団欒の楽しいひと時は暫し続きました。時計の針は23時を差しています。
「ママ、ケーキ。美味しかったね」
「そうね」
「いい記念日になったなぁ。束沙、春香」
「うん!・・・ママ、これかもずーと!綺麗なママでいてね」
「はいはい、ありがとね。春香ちゃん」
「うんじゃ!これからはパパとママのお時間ね。お邪魔虫春香!消えま〜す」
「おいおい、何だそれ?」
「まぁ〜この子ったら〜・・・・くすくす」
「それではごゆるりと夫婦の愛を確かめ合ってくんなまし。ではでは」
「あはは、こりゃ一本取られたなぁ〜春香に・・・・・」
「そうねぇ〜・・・・・くす」
居間を離れてそれぞれの寝室に向かう夫婦と春香です。
「あなた、先に寝室で待ってて。私、HPの更新作業があるから」
「分かったよ、束沙。お前の好きな麻縄を用意しているよ」
「うふふ、今夜は記念日だからたっぷりとお・願・い・・・主様」
「むふふ、覚悟は出来ている様だね。束沙」
「はい・・・・・」
そう言って一旦、ひろしと離れた束沙はHPの更新の為、部屋に向かいました。
「さてと、始めましょうかね。・・・・・あら」
PCの傍に飾ってある貝殻を目にした束沙は、それをそっと手に持ちました。
「そう言えばひろしさんと初めて出逢ったのは、海辺でこの貝殻を見つけた日
だったわね。あれからもう何年経つのかしら?」
一人淡い感傷に浸る束沙です。
「春香とひろしさんに出逢う事が出来た記念日かぁ〜・・・・」
春香とひろしの言葉を思い起こす束沙です。
「貝殻さん、みんなあなたのお蔭ね。どうも有難う〜・・・チュッ」
束沙の好みの螺旋模様の壁紙の部屋で、そっと貝殻に口付けをする束沙。
気にせいだろうか?彼女に口付けをされた貝殻が、私の目にはほんのりと
赤くなった様に見えたのですが?皆さんはどうですか?


誕生日、それはこの宇宙で唯一あなたが存在した証です。遺伝子操作の
発達でコピーが可能な時代であっても、あなたと言う原点は唯一つです。
人もまた、老いと死に脅える動物です。親から子へそして子から孫へと
命のリレーが継続され続ける事が出来るのも、誕生日があるからだと私
は思います。そう、あなたと私がこうして出遭えたのも、同じ時代に
生まれる事が出来た“誕生日”があってこそなのですから・・・・・・

「マーメイド・プリンセスの歌声 そして・・・・ 完 」


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