男爵ひろし様の作品

宇宙螺旋戦争
-ファイナル・エピソード-

ガルマン回廊での激戦から三ヶ月が過ぎ、アイゼンヘルツ帝国首都星ゲーリングでは艦隊の再編制が完了していた。バロン皇帝亡き後、皇位を継承したユーヤ新皇帝の下にバクロード元帥が訪れる。
「ユーヤ皇帝陛下、昨日、総艦隊数80万隻まで艦隊編制を完了致しました」
「そうですか。ご苦労様です、バクロード元帥」
「はっ!ですが、帝国三大将軍亡き為、実戦経験の乏しい将兵での編制となって居ります。皇帝陛下」
「長距離亜空間通信がもう少し早く届いていれば、帝国三大将軍を含め多くの将兵の尊い命を救えたのに。その事が大変残念に思えてなりません。元帥」
「はっ!私にとっても亡きバロン皇帝陛下よりお預かり致しました要塞と艦隊を失い、何とお詫びして良いものやら謝罪の言葉が見付かりません」
「元帥が詫びる必要はありません。責められるべきは軍の最高指揮官である、亡き我が父バロン皇帝です。父に成り代り元帥を始め多くの将兵の遺族の方々に対し、私は深い哀悼の念と陳謝の気持ちでこの胸が裂ける思いです。元帥」
「はっ!勿体無いお言葉を賜り、このバクロード。全知全霊を以って皇帝陛下に忠誠をお誓い致します。その証として全艦隊を以って必ずや敵要塞を破壊して、螺旋連邦首都星地球を陥落してご覧に入れます」
「元帥、それには及びません」
「はっ?何と申されますか。皇帝陛下」
「この長きに渡る戦争で両国は多大な犠牲を支払って来ました。両国とも些細な誤解から相手を憎む事だけしか出来ず、互いを理解し合う心が失われています。亡き父バロン皇帝に於いても螺旋連邦を葬る事以外眼中に無かったのですから。私は生前から父に幾度も螺旋連邦との講和の場を持つ様促していました。しかし、父は私の意見を聞き入れず戦いを繰り返していました。そこで私は1年前から密かに使者を螺旋連邦に送りバルメレント大統領と連絡を取り合う事で知ったのですが、大統領の方も帝国との講和を願っている事が分かりました。彼もまた軍部の強い戦争理念を押え切れない事に心を痛めていた様です。先刻の戦いで両国とも持てる軍事力が衰退した事から、これ以上の戦争継続は無意味と判断しました。よって双方の全ての捕虜の返還と講和条約を締結する為、ガルマン回廊の要塞内にて会見を行う事にしたのです」
「恐れながら申し上げますが皇帝陛下。先程、軍事力が衰退したとおっしゃられましたが、我が帝国の艦隊数は螺旋連邦を遥かに上回る数です。全艦隊を導入すれば敵要塞を必ず破壊して螺旋連邦領への通路を確保してご覧に入れます。また、戦闘をせずに会見に臨まれた場合、万が一敵が皇帝陛下のお命を奪おうと策略するやも知れません。会見などせずにこのバクロードにお任せを・・・・・」
「元帥、先程の私の言葉を聞いていなかったのですか。互いを理解信頼し合う心が大切だと言う事を。それに例え全艦隊を以って要塞を破壊出来たとしても、我が方の将兵の犠牲も決して少なくはないでしょう。消耗した艦隊では無傷の螺旋連邦艦隊によって、更なる損害を受けるのは明白でしょう。また新たな新兵器や要塞を開発建造するには、長い時間と莫大な予算が必要です。今の帝国の国家予算は赤字同然です。従い、これ以上の戦争継続は両国の存亡に関わる大問題です。それと先程元帥は私に忠誠を誓うと言いましたね。ならばアイゼンヘルツ帝国皇帝として発言します。“これは勅命である”」
激しい眼光でバクロード元帥に勅命を告げるユーヤ皇帝。
「ははっ!このバクロード、謹んで勅命を受け賜ります!」
「うむ。元帥、会見に赴く際、捕虜の方々の輸送手段として輸送艦隊を使用しなさい。それから帝国領進攻作戦に於いて食料生活物資を徴収した全ての惑星に、全艦隊を以って食料生活物資を供給する事。また、全ての惑星に供給が完了次第、全艦隊は首都星ゲーリングに帰還。同時に各惑星に対して独立自治権を与えます。そして全艦隊が帰還後、私と元帥は捕虜の方々と共に輸送艦隊に乗艦。一切の戦闘艦を同行させる事なく要塞へと向かいます。分かりましたね。元帥」
「はははっ!」

時、同じくしてガルマン回廊に点在している螺旋連邦軍の要塞管制室では、三ヶ月前の戦いで要塞を防衛した功績により、サダール大将は元帥にツカサ中将は大将にそれぞれ昇進していた。
「サダール司令官、各惑星からの残存艦隊を集めても要塞駐留艦隊と合わせて10万隻が関の山です」
「う〜む。厳しい状況だな。だが、要塞の整備は万全だ。何とかなるだろう。ツカサ副司令官」
「そうですね。各惑星から集めた空間探知機雷も充分に配備可能ですし」
「気掛かりなのは三ヶ月前に失った多くの指揮官と将兵に比べ、実戦経験が殆どない将兵ばかりの艦隊だからな。ここ一ヶ月の模擬訓練で鍛えてはいるものの・・・・・・・」
「司令官、部下達を信じましょう。彼らも誇りある螺旋連邦軍の一員ですから・・・・・・・」
「そうだな。司令官が部下を信頼しないと示しが付かないな。あはは、済まん済まん・・・・」
その時、要塞管制官から司令官に報告が届けられた。
「サダール司令官、螺旋連邦首都星地球からバルメレント大統領より直接通信回線が来て居りますが」
「うん?バルメレント大統領から通信が届いているだと。分かった、回線を繋げ」
「はっ!回線を繋ぎます。・・・・・・・どうぞ」
「バルメレント大統領閣下!お久し振りであります。サダール元帥であります」
「うむ、暫く振りだな。元帥。元気そうでなにより」
「で、ご用件は?」
「実は1年程前から密かにアイゼンヘルツ帝国のユーヤ皇帝と連絡を取り合っていたんだが、この程、双方の全ての捕虜を返還する事と帝国との講和条約を締結する為に、ユーヤ皇帝が自ら我が要塞に来て会見を行う事になった。しかも一切の戦闘艦の同行もなく捕虜達を輸送する輸送艦隊に、ユーヤ皇帝とバクロード元帥が乗艦して来られる様だ。本日より14日後に我が要塞に到着する予定だ。地球からも各収容所惑星から捕虜を輸送艦隊で要塞まで輸送する。到着予定は本日から12日後。尚、帝国側からは我が要塞の武装は現状維持で構わないとの事だ。丁重な出迎えを頼む。元帥」
「はっ!では、大統領閣下も12日後に我が要塞にご到着なされるのですね」
「うむ、そう言う事だ。元帥、くれぐれも無礼の無い様に頼むぞ!」
「はっ!ご命令、確かに受け賜りました!バルメレント大統領閣下!」
「うむ。では、12日後にまた会おう。元帥」
「はっ!」
バルメレント大統領との通信回線が閉じられる。どよめく要塞管制室内部では。
「驚きましたねぇ、司令官。まさかこの要塞で帝国との講和条約締結の為の会見が行われるとは・・・」
「ツカサ副司令官、全くだぁ。それも皇帝と元帥が自ら赴いて来るとは驚きだぁ・・・」
「帝国側でも我々に誠意を示したいのでしょう。艦隊数では帝国の方が遥かに上回るのにあえて1隻の戦闘艦も遣さずに来られるのですから・・・」
「そうだな。両国の首脳の間で既に講和の意思があるのなら、向かい入れる我々としてもそれを拒否する理由はない。何れにしても戦争が終結する事に異論はないな。ツカサ副司令官」
「はい、同感です」
「だが、将兵の訓練は会見2日前まで続けよう。万が一に備えてな」
「はっ!分かりました。司令官」

場面は再び帝国側の方に戻る。帝国艦隊80万隻が嘗て食料生活物資を徴収した各惑星を訪れ、庶民達に物資を供給している。また、ここでは第5惑星に焦点を合わせてみよう。
「庶民の皆さん、大変ご迷惑をお掛け致しました。これより惑星全域に渡り食料生活物資を再供給致します。この度、ユーヤ皇帝陛下のご意思により帝国は螺旋連邦との講和条約を結ぶ為、皇帝陛下御自ら螺旋連邦軍の要塞に行かれ会見を行います。また、我々は物資の供給が終わり次第、全艦隊は首都星に帰還。庶民の皆さんに惑星の独立自治権を供与し、今後、一切の軍事介入は行わないとここに宣言致します」
「それは本当でしょうか?帝国軍の方々・・・・」
「はい、ここに皇帝陛下よりの独立自治権を承認した公文書が御座います。さっ、どうぞ」
「おおお!確かに皇帝の紋章と帝国国儒が捺印されている。うん、間違いない」
「ううう・・・良かったわぁ。これで子供達にミルクを飲ませられるわぁ」
「もう!これで俺達もやっと帝国の植民地支配から解放されるんだぁ!」
「ううう・・・この数ヶ月の間、どれだけ多くの仲間が飢えに苦しみ死んで逝った事だろう・・・」
「そうだな。子供達、特に赤ん坊が餓死して逝くのには耐え難い苦痛だったな・・・」
「そうねぇ。私達大人は子供達に何もして上げられなかったわぁ。子供達、許してね。ううう・・・」
「もう!戦争は懲り懲りじゃぁ!年寄りより若い者が先に死んで逝くのは見るに耐えんかったぁ・・・」
「軍人さん、物資を暮れるのは有り難いのじゃが、この星にはもう医者や看護婦が居らんのじゃぁ・・」
「その点はご心配無く。医療スタッフや医薬品も提供致しますよ。それがせめてもの罪滅ぼしですから」
「おおお!あ、有り難い・・・有り難い・・・有り難い・・・」
「さぁ!皆さんの中で動ける方は手伝って下さい。これから物資をお配り致しますので・・・」
「よし!俺も手伝う。俺もだ!俺も。俺も。私も手伝うわ。私も・・・・・・・・・・・・・」
こうして惑星全域に物資を提供した帝国艦隊は、作業が完了したのを確認して第5惑星から離れて行った。また、各惑星に於いても次々と艦隊が首都星ゲーリングに向け帰還した。

日々は流れていよいよ螺旋連邦とアイゼンヘルツ帝国との講和の為の会見の日が訪れたのである。
「サダール司令官、先程回廊の出入口より帝国輸送艦隊から回廊に入るとの連絡が届きました」
「うむ、帝国輸送艦隊に返信。我が螺旋連邦は帝国の来訪を歓迎すると伝えろ」
「はっ!こちら要塞管制室、我が螺旋連邦は帝国のご来訪を心より歓迎致します。ようこそ」
「こちら帝国輸送艦隊、螺旋連邦の方々に深い敬意を表すと共に歓迎して頂く事に感謝致します」
徐々に帝国輸送艦隊が要塞に近付く。要塞側もドックを開放して帝国輸送艦隊を迎え入れる。
「サダール司令官、帝国輸送艦隊全艦要塞ドックへの係留が完了致しました」
「よし、ツカサ副司令官。バルメレント大統領と共にユーヤ皇帝ご一行をお迎えしよう」
「はっ!」
バルメレント大統領、サダール司令官、ツカサ副司令官の3人は、警備兵を従えて要塞ドックに赴き、ユーヤ皇帝とバクロード元帥を出迎えたのである。それは正に歴史的な出来事であった。
「ユーヤ皇帝陛下並びにバクロード元帥、ようこそ。螺旋連邦大統領バルメレントです」
「バルメレント大統領閣下、丁重なお出迎えをして頂き感謝致します」
両首脳が固い握手を交わした。それは新しい時代の到来を人々に深く印象付けたのである。
「バクロード元帥、銃を連邦の方々に預けなさい」
「はっ!では、サダール元帥閣下に銃をお預け致します。どうぞ」
「確かにお預かり致しました、バクロード元帥閣下」
「それでは皇帝陛下、講和条約の会見席にご案内致します。どうぞ。こちらへ」
「有難う御座います、大統領閣下。では、参りましょう」
穏やかな雰囲気で講和条約の会見席に赴く両首脳である。そして会見が執り行われる前に双方の捕虜の返還が行われた。三ヶ月半前の帝国領進攻作戦で帝国軍の捕虜となっていたジューン中将とクーグ少将を出迎えるサダール司令官とツカサ副司令官である。
「ジューン中将、クーグ少将。帰還おめでとう。待たせて済まなかった」
「サダール大将、いえ、元帥閣下。お出迎え有難う御座います。ジューン中将、只今帰還致しました!」
「元帥閣下、またお会いできて嬉しく思います。クーグ少将、只今帰還致しました!」
「ジューン中将、クーグ少将。本当にご苦労様でした。お帰りなさい」
「ツカサ中将、あっいや!大将閣下。有難う御座います。ジューン中将、無事に戻りました」
「大将閣下、このクーグ少将。また閣下のお美しいお顔が拝見出来て感激です!」
共に戦って来た戦友同士の固い握手が交わされ、再会出来た喜びの涙を押さえ切れないのであった。また会見席に戻ったサダール司令官とツカサ副司令官はバクロード元帥と言葉を交わす。
「バクロード元帥閣下、直接お会いするのは初めてですな。閣下の数々の辣腕には感服致しました」
「サダール元帥閣下、この様な形で閣下とお会い出来て光栄で御座います」
「全くですな」
「バクロード元帥閣下、私からも歓迎の言葉を贈らせて頂きます。ようこそ」
「ツカサ大将閣下、お噂には聞いて居りましたが実にお美しい。先の要塞決戦では貴女が作戦を立案されたとの事の様ですが、なるほど。その才色兼備に於いては私等適う筈がありませんなぁ」
「もう、元帥閣下ったら。ご冗談を・・・・・・・でも、お褒め頂き恐縮ですわ」
「あっははははは・・・・・・(サダール、バクロード、ツカサ)」
嘗ては敵同士だった彼らは友好的な出会いの場に立てる事の喜びを噛み締めていた。

会見席に腰を降ろす両首脳。螺旋連邦側はバルメレント大統領を中心に右側にサダール司令官、左側にツカサ副司令官が座っている。一方、帝国側ではユーヤ皇帝を中心に右側にバクロード元帥、左側には捕虜返還で返されたデルビー大佐が座っていた。先ずバルメレント大統領から歓迎の挨拶を行う。
「ユーヤ皇帝陛下、改めて螺旋連邦を代表致しましてここに皆様を歓迎致します」
そしてユーヤ皇帝からも返礼の言葉が螺旋連邦に贈られる。
「バルメレント大統領閣下、並びに寛大なお心を以って私共をお迎え頂いて下さった螺旋連邦の方々に、深く感謝の意を表すと共にこの長きに渡った両国の戦いで失われた多くの、犠牲者の方々に対し謹んで哀悼の意を表したいと思います」
ユーヤ皇帝の御礼と弔意の言葉を聞き皆、席を立ち上がり犠牲者に対して黙祷を行う。1分程後、再び着席したユーヤ皇帝からある発言が行われた。
「皆さん、講和条約を調印する前に是非ご覧頂きたい物があります。それは半年前にアイゼンヘルツ帝国領の最果ての資源採掘惑星に於いて、偶然発見された異文明の物と思われるプログラム・ファイルです。では、これから解析した映像をご覧下さい」
会見席の照明が暗くなり映し出された3次元立体映像の中から謎の人物の姿が映し出された。
『このプログラム・ファイルを見る事が出来たと言う事は、進化した文明を持つに至ったと言う証です。私達が故郷の惑星で生を受け進化を遂げ文明を築き上げた時、私達は宇宙に進出して他の進化した文明を求めて銀河系のあらゆる宙域を探索したのです。しかし、私達以外に進化した文明を持つ惑星には等々巡り会う事が出来ませんでした。また、生命体が発見された惑星に於いても微生物程度の生命体でしか存在を確認出来ませんでした。結果、この銀河系で私達は孤独な存在であると悟る他はなかったのです。ですが、私達は全てに失望した訳ではありません。この銀河系で唯一進化した文明を持つ私達は、その存在意義を考えある結論に至りました。それは私達の知恵と意思の全てを後世に伝え残す義務と責任があるのだと。幸い、微生物程度の生命体は存在している事から、その微生物の遺伝子に私達の遺伝子を組み込む事で進化を遂げさせ、何時の日か私達の知恵と意思を受け継ぐ生命体に成長する事を願い。そして出会ったお互いを愛しみこの銀河系に恒久的な平和を築く事を期待したのです。微生物生命体を確認した全ての惑星での遺伝子操作を完了した私達は、別の銀河系に行く決心をして同じ知恵と意思を持つ文明を探索します。最後に今このプログラム・ファイルを見ている私達の子供達へ、成長したあなた達の姿を見る事は適いませんが、あなた達と私達は共に大いなる大宇宙の意志に擁かれているです。この意味を決して忘れないで下さい。我が愛する子等へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
ここで映像は途切れ再び会見席の照明が点灯する。そこに居る皆、全員が驚愕のあまり暫く沈黙が続く。そしてユーヤ皇帝が語り始めた。
「皆さん、これは解析の結果、今から約100億年程前のファイルです。もう、お分かりと存じますが。生を受け進化した惑星は異なりますが、私達の種の起源は共通のものです。父であり母である彼らから見た私達の姿はどう映る事でしょう?きっと悲しみに憂いている事でしょう。私達は些細な誤解から長年殺戮を繰り返して来て、彼らが残してくれた知恵と意思を何時の間にか誤った形で理解していたのかも知れません。でも、私達は滅亡した訳ではありません。まだ、遣り直せるのです!正しい知恵と意思を身に付ける事でお互いを愛せる筈です!そして互いに手を取り合いまだ見ぬ同じ知恵と意思を彼らから授かった、この銀河系の多くの兄弟達と巡り会う為に力を合わせましょう!」
「パチパチパチパチパチパチパチパチ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
会見席に座している両首脳とその側近達、更に両首脳達を囲む人々から惜しみない拍手が贈られた。

拍手が鳴り止み再びユーヤ皇帝から重大発言が語られたのである。
「皆さん、私はもう一つ皆さんにお話ししなければならない事があります。それは今、ここで私はアイゼンヘルツ帝国皇帝の全ての権利を放棄して一市民となり、尚且つ、帝国制度その物を全て解体致します。そして予てよりバルメレント大統領との話し合いで決めた、連邦でも帝国でもない新国家である螺旋共和国の樹立を、初代バルメレント大統領と共にここに宣言致します!」
そしてバルメレント大統領からも発言があった。
「ユーヤ皇帝陛下。いや、ユーヤさん。螺旋共和国初代大統領として貴女方を共和国市民として心からお迎え致します。ようこそ!螺旋共和国へ!」
「パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
再び惜しみない拍手が贈られた。そしていよいよ講和と新国家樹立の為の調印書にバルメレントとユーヤがサインをし終えた瞬間の出来事だった!
「我が帝国は連邦共の言い成りにはならん!!大統領!覚悟しろ!!」
捕虜返還で返された銃を隠し持っていたデルビー大佐が、その銃口を大統領に向け放ったのである!
「ビイィィィィィィィィィィィィィィィ!」
「バルメレント大統領!危ない!!・・・・・うっわぁあああああああああ!!」
デルビー大佐の暴挙に気付き大統領の前に自ら盾になって庇うバクロード元帥。そして・・・・・・・
「警備兵!デルビー大佐を取り押さえろ!」
「はっ!・・・デルビー大佐!大統領暗殺未遂の現行犯で逮捕する!」 ツカサ副司令官の命令でデルビー大佐を逮捕する警備兵。だが・・・・・・・・
「ビィイイ!うっ!・・・・・・・・・」
「し、しまったぁ!・・・・・・・・・」
警備兵との乱闘で己の胸に謝って銃を放ってしまったデルビー大佐は死亡した。そして大統領の前に倒れ込むバクロード元帥の傍へ、彼の名を叫びながら駆け寄るユーヤ。
「バクロード元帥!元帥!死、死んではいけません!元帥!元帥!」
彼の頭を己の膝に乗せ懸命に声を投げ掛けるユーヤ。
「バ、バクロード元帥!元帥!聞こえますかぁ!私の声が聞こえますかぁ!元帥!元帥!」
「おい!誰か!早く医者を!医者を呼べ!早く!」
必死に叫ぶバルメレント大統領。サダールとツカサは呆然としていた。
「大、大統領・・・お、お怪我は・・・御座いませんか?・・・」
その声に両膝を床に付いて元帥に語り掛けるバルメレント大統領。
「元帥!有難う。貴方のお蔭で掠り傷一つ負っていない!もう直ぐ医者がここに来る!頑張るんだ!」
「そうです!元帥!気を確かに!死んではいけません!」
更にユーヤも懸命に元帥に声を掛けた。
「よ、良かったぁ・・・閣下が・・・ご無事で・・・。閣下・・・彼を・・・デルビー大佐を・・・許して・・・やって・・・下さい・・・。彼は・・・諜報将校・・・として・・・敵地に潜入・・・撹乱する様・・・厳しく・・・教育を・・・受けた・・・人間です・・・。帝国を思う気持ち・・・他の誰よりも・・・強い・・・。その意味で・・・彼も・・・犠牲者の・・・一人ですから・・・・彼の上官である・・・私の命で・・・罪を・・・償いますので・・・どうか・・・彼を・・・・・・」
「元帥!もういい!もう、それ以上口を開くんじゃない!」
「そうです!元帥!もう、話さないで!」
「皇、皇帝陛下・・・貴女が・・・もっと・・・早く・・・即位・・・していたら・・・一人・・・多くの・・・将兵を・・・お救い・・・して・・・下さった・・・でしょう・・・。これから・・・その・・・優しい・・・お心で・・・永遠の・・・平和を・・・皆で・・・築いて下さい・・・・・」
「はい!約束しますよ元帥!だから!だから!死んではいけません!生きるのですよ!元帥!」
「そうだとも元帥!ユーヤさんの言う通りだ!死んではいかん!生きるんだ!生きるんだよ!元帥!」
「ははは・・・ユーヤ皇帝陛下の・・・柔らかくて・・・暖かい・・・膝枕で・・・死ねるなら・・・このバクロード・・・本望・・・御座います・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「元帥?バクロード元帥!う、嘘!嫌!嫌ぁあああああああああああああああああああああああ!!」
「元、元帥・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ようやく現場に辿り着いた医師が彼の脈を取る。だが、医師は只、首を横に振るだけであった。
「全員!整列!偉大なる元アイゼンヘルツ帝国バクロード元帥閣下の霊に敬礼!!」
サダール元帥の号令で一斉に敬礼をする人々。ツカサ大将の目にも涙が滲んでいた。ユーヤ元皇帝の膝の上で穏やかな表情のままバクロード元帥は安らかに逝った。そして彼の血が付いた調印書を両手に持ったバルメレント大統領の口から・・・・・・・
「バクロード元帥の命が宿ったこの調印書の誓いは未来永劫、決して破られる事があってはならない。彼を始め犠牲になった多くの人々の魂に我々は応えなければならない。恒久的な平和を守る事を・・・」
螺旋連邦とアイゼンヘルツ帝国との30年に及ぶ戦争で、両国から動員された将兵と艦隊数は合わせて600億人と5400万隻である。また、戦場となった各惑星の一般庶民の犠牲者の数は、それを遥かに超えるものであった。100億年前、この銀河系に最初の高度文明を築いた彼らの祖先達の、偉大な知恵と意思の大いなる遺産を引き継いだ螺旋共和国の子供達。未だ見る事のない兄弟達との出会いを求めて、戦う船ではなく平和と友好の箱船と言う名の宇宙船に乗り、広大な銀河系の海へと大航海を始めたのであった。この物語を全くの架空の世界と位置付ける方々も多いだろう。何故ならば現代に於いても新たな新兵器を駆使して戦争を繰り返している人類が、今後500年もの間、その文明を維持存続する事が果たして出来るのかと危惧される由縁である。もしも我々の種の起源にこの物語の様な神話的な事実が存在したならば、正に人類は偉大な知恵と意思を冒涜しているに他ならない。何れにしても現代の我々が出来る事としたら、大いなる慈愛を持った創造主に祈り慈悲を乞う事位だろうか?

宇宙螺旋戦争(スペース・スパイラル・ウォーズ)-ファイナル・エピソード-THE END


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