男爵ひろし様の作品

螺旋迷宮(スパイラル・ラビリンス)
-後編-

季節は師走を迎えています。ここ市立美術館では斎藤健司先生の個展が開催されています。早乙女親子と立花綾が展示会場に足を運びました。
「あ、ママ。健司先生だよ。・・・先生、こっち、こっち!」
「いやぁ、皆さん。ようこそ」
「今日は斎藤先生。春香と綾ちゃんと見に来ました」
「ねぇ、先生。早く作品が見たいなぁ。春香もそうでしょ?」
「そうだね、綾。先生ったらモデルをさせといて見せてくれなかったから」
「もう、二人共。斎藤先生を困らせちゃ駄目じゃない」
「あはは、済まん、済まん。じゃぁ、案内をするよ。お嬢さん方」
「私と綾はお嬢さんだけど、ママは違うよね。先生」
「こら!春香!それ、どう言う意味よ!(\ /)」
「(゜▽ ゜)エ!あは^^;・・・気にしない、気にしない。(^0^)v」
「気にするわ!どう言う事よ!」
「そうよ、春香ったら綺麗なママを捕まえて。失礼でしょ」
「(゜〇 ゜)あ!綾の裏切り者!先生ぇ、ヘルプ!」
「流石は綾ちゃんね。良く分かっているわ。(^^)」
「あはは^^;;。それでは可愛いお嬢さん方と綺麗なお姉さんと言う事で」
「まぁ、斎藤先生ったら。お口がお上手ですわね。(*^^*)ポ」
「もう、ママの方じゃない。先生を困らせているのは(‐‐)」
「今月はお小遣い無しね。春香。(‐‐メ)」
「^^;反省しています。姉御様・・・・・」
「宜しい。(^^)v」
呆れた顔で私と春香を見ている斎藤先生と綾ちゃん。「あぁ・・恥ずかしい」

「では、淑女の皆様。ここからが私の作品の展示会場です」
「まぁ!なんて綺麗な絵画でしょう」
「あ、これ、私と綾ね。そうでしょう、先生」
「おお、良くわかったね。早乙女君」
「だってぇ、顔が良く似ているもん」
「ほんと、春香と綾ちゃんにそっくり!」
そこには純白の衣を着て水辺で白鳥と楽しげに戯れている二人の天使が描かれていました。水飛沫(みずしぶき)がまるで宝石の様に煌いてします。
「これは純粋な心を持った少女を天使に見立てて、神と悪魔との戦いが繰り広がる物語の序章の絵です」
「神と悪魔の戦いですか?斎藤先生」
「そうです、早乙女さん。徐々に物語が展開して行きますよ」
「流石ね、健司先生。私達の事、良く知っているじゃん」
「違うわよ、春香。斎藤先生の感性が素敵なのよ」
「早乙女君と立花君が私のイメージに合っていたからね」
「ママ、ほら!私の言う通りじゃない」
「はい、はい」
順路に従って絵画を見て行くと確かに、二人の天使が悪魔に捕らえられて鎖に繋がれて行くシーンが現れました。
「あれぇ!この絵、春香のママに似ていない?」
「あ!ほんとだ。ママにそっくり!」
「あら、本当だわ。斎藤先生、これは私ですか?」
「えぇ、そうです。捕らわれた天使達を思い、悲しみに嘆く美の女神アフロディーテです」
それはとても透明感がある絵画でした。薄紫の衣を着て頭に透き通るベールを被り、悲しげに涙を流す女神が描かれています。そして隣に飾られている絵画にはもう一人の女神が描かれていました。
「健司先生、この女神は誰なの?」
「これかい?立花君。闘いの女神アテナだよ」
燃える様な真紅の衣を着た闘いの女神アテナが美の女神アフロディーテに何かを語り掛けている姿が描かれていました。
「斎藤先生、アテナは何を話しているのですか?」
「はい、アテナはアフロディーテに自らの僕である聖闘士を使い、悪魔に捕らわれた天使達の奪還を約束しているんですよ。早乙女さん」
「聖闘士?何ですかそれは?」
斎藤先生の説明によるとギリシャ神話に登場する闘いの女神アテナには、聖なる衣を纏った聖闘士と言われた少年達がいたそうです。但し、武器を嫌うアテナは彼らに強大な力を与え、その拳は山を砕き、またその蹴りは大地を割ったと旧約聖書に記されているそうです。

「うわぁ!この絵、残酷ぅ!・・・・・・・・・・」
「どうしたの?春香。まっ!本当だわ・・・・・・」
そこにはとても恐ろしい形相をした悪魔達が、鎖で縛り上げられた天使達の純白の衣を剥ぎ取っていました。無残に衣を剥ぎ取られた天使達が涙ぐみながら天を見上げています。そして悪魔達が笑いながら天使達を陵辱している光景が描かれていました。
「もう、健司先生のエッチ!私と春香をこんなにして・・・・・」
「君達だけじゃないぞ。早乙女君のママだって・・・・ほら!」
「え、私も?・・・・・あらま、ほんとだわ」
アテナの制止を振り切り単身で魔界に向かったアフロディーテが、魔王サタンとその妻リリスに捕まり鎖で幾重にも縛られています。そしてリリスの長く伸びた尻尾が鞭の役目を果たし、アフロディーテの衣が無残に切り刻まれる様子が描かれてしました。
「も、もしかして斎藤先生は・・・こう言うのがお好きなんですか?」
「美しい女性にあえて受難を与える事で、秘めたる精神の美を探究しているんです。ま、残念ながら想像の範囲での事ですがね」
「想像の・・・・範囲・・・・ですか・・・・」
「かえって皆さんに不快な思いをさせてしまいましたか?だとしたら誤ります」
「い、いえ。そんな事はありませんよ斎藤先生」
「そうよ健司先生。只、驚いただけよ」
「そ、ママと綾の言う通りよ。とても綺麗だよ健司先生」
「有難う、早乙女さん、春香君、綾君」
その後の物語の展開はアテナの聖闘士が激しい闘いの末、アフロディーテと天使達を救い出したものの、魔王サタンと妻リリスを取り逃がしてしまい、神と悪魔の闘いは次の千年紀に持ち越されると言う結末でした。

私達4人の背後から一人の男性が声を掛けて来ました。
「いやぁ、どうも今日は斎藤先生、早乙女さん・・・・」
「あ、どうも伊集院先生。良く来て下さいましたね」
「・・・・今日は・・・・伊集院先生・・・・」
「あ!伊集院先生だ。この間はお世話になりました」
「綾君、元気そうだね。その後、具合はどうかな?」
「はい。もう、めっちゃっ、元気ですよ」
「前より少し煩く成ったけどね。そうでしょ、綾」
「春香、何よ!喧嘩売る気ぃ!」
「あはは。二人共、元気みたいだね。僕は嬉しいよ」
「伊集院先生、どうですか私の個展は?」
「そうですね、前半と後半の絵はいいんですが。中間の作品はどうも・・」
「女神と天使達が陵辱されている作品ですか?」
「えぇ。私はあまり暴力的な描写は好みませんので。ですが、絵の質感や物語の構成には大変感銘致しましたよ。芸術家として私は認めます」
「有難う御座います。そうですね、全てに共鳴して頂く方は有り難いですが、あえて不協和音を本音で語って下さる方がいるからこそ、様々な芸術が生まれて来ますよね。貴重なご意見を有難う御座います」
「うわぁあ!なんか大人の会話って感じ。そう思はない綾」
「うん!格好いい!クラスの男子なんてお子ちゃまばっか!」
「そう言う、あなた達だってまだ子供でしょ」
「もう、煩いなぁママ。皺が増えるわよ」
「二ヶ月、お小遣い無しでいいのね?春香ちゃん(‐‐メ)」
「(☆▽☆)ドキ!お、お許し下さい!女王様!^^;;」
「分かれば宜しい。ホホホ。v(^0^)v」
「あははは。楽しい親子だね。早乙女君」
「お恥ずかしい所をお見せしました。すいませんね、伊集院先生。^^;」
「では、皆さん。私はこれで・・・・・・」
「はい、ではまた」
伊集院先生は笑顔で私達に別れを言って帰られました。それから私達も他の展示物を見物してから美術館を去りました。

その夜の事、私は自宅に予備として用意してある看護婦の白衣を着て、両手両足に枷を附けてベッドに括り付け、大の字になった私は健司先生に悪戯をされると言う妄想を擁いていました。
「あん!や、やめ・・・て・・・やめて下さい!・・・先生・・・あ」
「そ!そこは!・・・だ・・・駄目!・・・い・・・嫌ぁああああ!」
「お・・・お願・・・い!パンティだけは・・・許・・・許してぇ!」
「あん!だ・・・駄目ぇえええええええええええええええええええ!」
私は予め下着の中に入れていたローターが子宮の奥で激しく震える感触と、淫らな妄想を擁きながら深夜まで一人寂しく喘いでいました。

翌朝、少し疲れた体で起床した私に春香が語り掛けて来ます。
「ママぁ、どうしたの?なんか疲れているみたいだけど・・・・・」
「ううん。大丈夫よ。少し寝不足かしらね」
「もう、深夜番組でも見ていたの?美容に悪いよ!ママ」
「あは、^^;。ごめんね、春香・・・・・・・・・・」
まさか深夜までいけない遊びをしていたなんて娘には言えませんよね。
『春香ちゃん。淫らなママを許してね』(心のお詫び)
朝食を済ませた私達は仕事場と学校に行きます。午前の診察が終わって職員食堂で昼食を取っていた私に、伊集院先生が話し掛けて来ました。
「早乙女君。ちょっといいかな?話したい事があるんだけど・・・・」
「・・・・何でしょうか?・・・・」
「私の部屋まで来てくれないか・・」
「・・・・はい・・・・」
おずおずと伊集院先生の後に着いて行く私の足取りは重かったです。
「先生、お話しって?・・・この前の件だったら・・・私は・・・」
「ま、そこに掛けてくれ。早乙女君」
「・・・・はい・・・・」
「早乙女君、以前に君に話した私の求める答えが分かったんだよ」
「え!そうなんですか?」
「斎藤先生の個展を見てから自宅に帰った時、現役を引退した親父が来たんだ」
「まぁ、お父様がいらしたのですか。良かったですね」
「そうだね、私は親父を尊敬していたから。でもその親父の口から意外な真実を聞かされた時は本当に驚いたよ」
「意外な真実?・・・・・・・・」
「私がまだ5歳の頃に親父には愛人がいたらしい・・・・」
「愛・・・人・・・」
「そう、厳格だった祖父がそれを知った時は大激怒したんだよ」
「そうでしょうね、100年も続いた名門の家柄ですから・・」
「まだ幼い私は祖父が何で怒っているのか分からなかった。只、その恐ろしさに震えていただけだったな。親父もまだ若かったから祖父と怒鳴り合いの喧嘩をしていたよ。一時は私とお袋と別れてその愛人の所に行く、行かせないで、大騒ぎになって親父は伊集院家から勘当寸前まで追い込まれたんだ」
「そんな事があったんですか」

「そこで祖父と親父の間に祖母とお袋が仲介に入り、家名を守る為に必死に二人を宥めたらしい。その甲斐あってか何とか争いは治まったが、祖父の条件としてその愛人に慰謝料と名目した手切れ金を渡すと言う事に」
「でも、幾らお金持ちだって全てをお金で解決しようなんて虫が良くありません?それに夫に裏切られたお母様のお気持ちだって・・・・・」
「早乙女君、実はお袋は私を生んでから半年後に卵巣に癌細胞が出来てしまい、子宮全体に癌が転移してしまったんだ。その為、子宮を全て摘出しなければ命の保障が出来なかったらしい。女として妻として夫を慰める事ともうこれ以上、母親に成れない悲しみで辛かったと思う。だからお袋はそんな後ろめたさからか、親父に愛人がいた事を知ってもそれを咎める事は一度もしなかった」
「でも、それじゃぁ、お母様の立場が益々悪くなりません?」
私は過去の男尊女卑の犠牲に成った伊集院先生の母親に深い同情の思いと、時代の非道徳的概念に激しい憤りを感じました。
「確かにそう言う時代だったね。でも、少なくとも祖父は違っていた。実の娘の様にお袋を可愛がっていたし、祖母に対しても寛大だった。只、家柄もあったろうけどお袋を裏切った親父の行為が許せなかったんだろう。親父も自分の過ちを素直に認めてお袋と祖父に謝罪したらしい」
「そうなんですか。で、愛人の方はその後、どうなりましたか?」

「実は話の本題はそこから始まるんだよ。早乙女君」
「え!・・・・」
「その愛人は妊娠していたんだ。親父の子を。それも11ヶ月だったそうだ。親父は金を渡すと同時にその子の養育費を支払うと彼女に申し出たそうだ。だけど彼女はその申し入れを断ったんだ。何故だか分かるかい?」
「きっと・・・お父様と一緒に成りたかったのと、片親だと生まれて来る子供が可哀想だと思ったんだわ。私がそうだった様に・・・・・・・」
「そう、その通り!金だけで人間の愛情は満たされないからね。自分一人でも子供を育てると彼女は言って親父から去って行ったんだ。だが、悲劇はまだ終わってはいなかった。一ヶ月後、親父は幾つもの産婦人科を訪ねて回り、彼女と生まれたであろう我が子の消息を辿ったらしい。そしてやっと辿り着いた1件の産婦人科で彼女が出産した事が分かったんだ。でも、その後の彼女の足取りは不明のままだった。それから数日後、新聞の朝刊を読んでいた親父の目にある記事が飛び込んで来たんだ。彼女が滝の上から身を投げて即死した記事をね。・・・・・・・・」
「そんなぁ!どうして自殺なんか?・・・・・・・・・・・・」
「遺書にはこう書かれていたらしい・・・・・・・・・・・・」
『私は愛する人に別れを告げられました。でも、その人の子供だけは生み育て様と決意しました。ですが、出産後、私は肺結核に掛かり余命いくばくもありません。何度もこの子を道ずれに死のうと思いました。でも出来ませんでした。私の腕に抱かれて心地良さそうに眠る顔を見ていると。そこで私はこの子を孤児院の前に置いて去る事にしました。誰かと会えばきっと思い止まれと言われるに違いありません。でも私にはもう時間がありません。せめてこの子・・・この子だけでも・・・許してね、私の娘。酷いお母さんよね私は。許してね、許してね・・・・私は私に別れを告げた人を今でも心の底から愛しています。もし、憎むとすれば今の時代の不条理を心の底から憎みます。でも、この子にはそんな思いをさせたくない。全ての人を穏やかな愛で束ねられる娘に成って欲しいと言う願いを込めて、この子の名前を"束沙"と名付けます。身勝手を言って申し訳ありません。どうか娘を・・・・束沙を宜しくお願い致します。束沙、本当にごめんね。悪いお母さんを許してね。許してね。許してね。許してね。許してね。許してね。許してね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「『許してね』と何度も書き記された文字が彼女の涙で滲んでいたらしい。親父はその記事を見て自分の仕出かした大きな過ちに嘆き悲しんだんだ。そしてその孤児院を探して事情を話し、束沙とそこにいる全ての子供達が成人を迎える日まで、養育費を支払い続けたんだ。もはや自分には父親を名乗る資格が無いと思ってね」
「そ、それじゃ!私は・・・・伊集院先生の・・・・」
「そう、私達は腹違いの兄妹だったんだよ。束沙。だから15年前に束沙が亡くなられた御主人の傍で途方に暮れていたのを見て、私が感じていた感情は一人の男としてでは無く、血の繋がった兄としての感情が芽生えたんだと分かったんだ。お互いの生い立ちの真実を知らずにね・・・・・・・・・・」
私は伊集院先生の・・・いえ、兄の語った二人の真実に驚愕してしまいました。身寄りの無い私に兄が・・・そして肉親がいたなんて・・・・・・・・
「私は束沙に辛い思いをさせたね。ごめんよ。でも、これからは兄妹としてそして病気や怪我で苦しむ患者さん救う者同士として頑張ろうな」
「私とても嬉しい!伊集院・・・いえ、お兄さん・・・・・・」
「それから私の姪の春香にも宜しくとね」
「はい!」
その夜の事、私は春香にこの事を伝えました。もう春香の驚き様とはしゃぎ様はそれは大変なものでしたね。

今日、私は仕事を終えてからちょっと寄り道をして本屋に来ています。
「あら、斎藤先生。こんな所で奇遇ですね」
「あ!早、早乙女さん・・・・ど・・・どうも」
「斎藤先生、何をそんなに驚いているんですか?」
「いっ・・・いえ・・・別に・・・」
斎藤先生は今まで読んでいた本を慌てて棚に戻そうとしました。でも、私の目にはその本の表紙に女性が縛られていたのをはっきりと見ました。
「先生・・・エッチな雑誌でも見てたんでしょう・・・(−−)ジロ」
「そ、そんな事は・・・美術の本を・・・ちょっと・・・^^;;」
「おかしいわね?ここ、男性専門コーナーじゃ・・・」
「しっ・・・失礼します。(^^)・・・・」
「え!・・・もう、斎藤先生ったら・・・可愛い・・・(*^0^*)」

それから2週間後の土曜日の午後、自宅に帰った私は・・・・・・・・
「只今ぁ・・・春香・・・春香?・・・いないのかしら?」
「あ、でも、春香の靴はあるわよね。・・・」
私は居間、食卓と探してから春香の部屋に行きました。そして・・・・
「春香、入るわよぅ。・・・・あ!春香!ど!どうしたの!その格好は!」
「むうぐぐ・・・むんぐうう・・・ううぐぐう・・・」
私の目の中にベッドの上で上半身を後ろ手に縛られて、揃えて縛られた足を背中に反った姿勢で猿轡を噛まされてもがいている春香の姿が・・・・
「春香!誰にやられたの!今、助けるからね!」
春香を助け様と近寄る私の背後から誰かの手が口を塞ぎました。
「え!うぐむう・・・むんぐう・・・?」
「し!声を出さないで!・・・私です。早乙女さん」
それは斎藤先生でした。でも何故ここに・・・・・・・・・・・
「さぁ、早乙女さん。腕を背中に廻して貰いましょうか」
「あ!痛い!・・・何!何をするんですか!・・・・・」
「いいから、おとなしくして!」
私の腕を背中に捩じ曲げて手首に縄を掛け、乳房の上下に4巻、腰に4巻巻いてから私を絨毯の上に座らせて、足首、膝、太腿を縛り上げられました。
「斎藤先生!これはいったい何の真似ですか!解いて下さい!」
「煩いなぁ。今、その口を塞いでやる」
「うぐうぐぐ・・・むぐぐ・・・」
「よし!これでいいと・・・」
「しかし、早乙女さんの縛られた姿は綺麗だなぁ」
「この膨れ上がった胸がまたいいね。ちょっと片方の胸を出しますか」
「むうう・・・ううう・・・むんぐうう・・・」
「わぁ!綺麗な乳房だぁ。おや?乳首が硬くなっていますねぇ」
「ちょっと噛んじゃうよ」
「う!・・・むうぐう!・・・」
「うん?早乙女さん。感じてるんですかぁ?じゃぁ、今度は・・・・」
私の乳首を噛みながら乳房を揉んでいた手が、スカートの裾に差し掛かります。そしてスカートの中に彼の手が忍び込んで来ました。
「う〜む。いい肌触りの下着ですね。シルクかな?」
「むん!うぐぐ・・・むんぐ・・・」
「おや?なんか下着の一部が湿って来たなぁ。もしかして感じてる?」

彼の指が濡れた部分を弄っています。複雑な動きを何度もしながら次第にその指は、下着の中に吸い込まれて行きクチュクチュと淫らな音を鳴らしています。
「指がどんどん中に入って行くねぇ。そんなに欲しいの?早乙女さん」
「春香君の見ている前でそんなに腰を動かして。いけない母親ですねぇ」
そうです。私はふと我に返りました。彼に縛られたであろう春香の目の前で私はあろう事か快楽に興じてしまったんです。元々、亡き夫にこの様な状況下で体が熱く燃える様に教え込まれたのですから。でも、娘の前で体を許してはいない男性に弄ばれるのは耐え難い苦痛です。
『お兄さん・・・助けてぇ・・・』
届く筈もない心の叫びが虚しく私の脳裏を駆け巡りました。
「さぁ、もうこの位でいかな?」
「?・・・・・・」
「早乙女さん、今、縄を解きますね」
彼はそう言うと私を縛っていた縄をスルスルと解き始めました。
「じゃぁ、次は春香君の縄を解こうね」
娘の縄を解く彼に私は罵声を浴びせました。当然ですよね。私達親子にこんな酷い仕打ちをした男なんですから。
「あんた!いったい何様のつもりぃ!どうしてこんな事をしたのよ!」
「ママ!違うの!健司先生が悪いんじゃないの!」
「え!春香。何を言っているの?今まで私達は・・・・・」
「違うの・・・違うのママ。・・・・」
「何が違うの!春香」
「早乙女さん。春香君を責めないで下さい。・・・・・」
「?」
「私が健司先生にお願いしたの。ママを喜ばしてって・・・・・」
「春香・・・・それどう言う事?・・・・」
「ママ、私、知っているよ。部屋でパパを思いながら縄で縛って遊んでいる事を・・・・」
「え!・・・見・・・見ていたの?」
「うん・・・」
私は顔から火が出るんじゃないかと思う位に動揺しています。
「死んだパパがそうやってママの事を可愛がっていたんでしょう。私、そんなママを見ていたら何だか可哀想になって・・・・・」
「春香・・・・・・・」
「美術館で健司先生の絵を見て思ったの。健司先生だったらママの寂しい気持ちを少しは和らげてくれるんじゃないかって・・・・」
「早乙女さん。春香君は身内の恥を承知で私に事の次第を話してくれたんですよ。それも自分の母親の事をね・・・・」

「ママ、私ね。健司先生がパパだったらいいなぁって思っていたの。パパの顔、写真でしか知らないでしょ。だからママが羨ましいの。生きていた頃のパパに沢山愛して貰ったんでしょ。いいよね。私も会いたかったなぁパパに。だってしょうでしょう。私はパパの娘だもん。でもね、ママの事だって大好きだよ。一人で私を育てて暮れたんだもの。大変だったんでしょ。寂しかったでしょ。でも、寂しいのはママだけじゃないよ。私だって・・・私だって。パパにいっぱいいっぱい愛して欲しかった。・・・・甘えたかった。・・・・怒られたかったんだよ。・・・・ママだけじゃないんだよ。・・・・私だって。・・・・」
「う、・・・春香・・・」
「早乙女さん、いえ、束沙さん。いつの間にか私は貴女に恋心を擁くようになりその想いを絵に描いていました。そうしたら春香君から貴女の密かな趣味の事を聞いて、今日、此処へ来たんです。私と共鳴してくれる感性を持った束沙さんの傍に来たくて・・・・・・」
「斎藤先生・・・・・・・・・・」
「束沙さん。私と・・・私と結婚を前提に交際して下さい」
「斎藤先生、でも私には・・・・・・・」
「御主人の事ですか?全てとは言えませんが私が可能な限り忘れさせてあげます。約束しますよ束沙さん。いつまでも過去に振り回されてはいけない。思い出は大切でしょうが、未来を見詰めていかなければいけない。束沙さん、御主人もきっとそう思っていますよ」
「少しだけ考えさせて下さい。まだ、気持ちの整理が・・・・・」
「はい、良い返事を聞かせて下さいね。束沙さん」

数日後、私は兄に全てを打ち明けて相談しました。
「お兄さん、私はどうしたらいいの?」
「束沙、躊躇う事はないんじゃないか。お前の全てを受け入れたいと思っている人がいるのなら」
「そうね、お兄さん。春香にも寂しい思いをさせたくないし」
「そうだ、お前はまだ若いんだから。健司先生と交際してみろ!」
「はい」
この日以来、私は健司さんと交際しています。新しい年を迎えたまだ肌寒い季節。私と健司さんは結婚式の会場選びに翻弄されていました。
「ねぇ、健司さん。やっぱり式は春がいいわよね」
「そうだね、桜の花が咲く頃がいいね」
「春かぁ。そう言えば春香の名前も春に由来しているわ」
「そうだね、春香が僕らを結び付けてくれたんだよね」
「ちょっと生意気な子だけど・・・感謝しなくちゃ」

4月3日の日曜日の午後4時。二人の結婚式が執り行われます。
「健司君、束沙。結婚おめでとう。幸せになるんだぞ」
「お兄さん、有難う。みんなも来てくれて有難う」
「主任、とっても素敵ですよ。お幸せに」
「健司君、妹をそして春香を宜しく頼む」
「はい、兄さん。必ず幸せにしてみせます」
「わ〜い!今日から健司先生は私のパパになるんだね」
「健司さん、私からも一つだけ約束して欲しい事があるの」
「なんだい?束沙」
「たった一日、・・・いえ、1分でもいいの。・・・私より・・・私より長く生きて!私を置いて行かないで!・・・もう・・・もう一人になるのは嫌!・・・嫌だから・・・ね。・・・お願い・・・約束して・・・」
「約束するよ束沙。もう絶対に君を離さない。決して君を一人にはさせない。例えこの先何があろうとお前を一人ぼっちにはしない!誓うよ」
「あなた・・・・有難う・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「カラ〜ン・カラ〜ン・カラ〜ン・カラ〜ン・・・・・・・・」
二人を祝福する教会の鐘がいつまでの鳴り続ける。そして教会を囲むビルに落ちて行く夕日の赤いスポットライトが、花嫁のドレスを淡いピンク色に染めて行き、春風に舞った桜の花弁が二人を暖かく包み込みました。


この世の移り変わりの違いは在るにせよ、人と人の巡り合せは不思議である。それはまるで何処までも続く螺旋階段の迷路を旅続けるか様に・・・・・

螺旋迷宮(スパイラル・ラビリンス)Fin】


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